お茶碗とありがとう
夫の実家に帰省した日。 離乳食を終えた息子が、おじいちゃんの膝でにこにこ笑っていた。 「そっちがいいのか〜」と、わたしはちょっぴり拗ねた声で言ってみたけど――その笑顔に、自然とこちらも笑ってしまった。 そんなとき、台所からおばあちゃんの声がした。 「うちの子もね、昔はこうして抱っこしてたのよ」 そう言って差し出されたのは、小さな柄のお茶碗。 「あなたのぶん。ごはんは、わたしたちが用意するから」――その一言で、気づかぬうちに張っていた肩の力が、ふっと抜けた。 言葉にはしなかったけれど、あの“ありがとう”は、きっとちゃんと届いていたと思う。