「おさんぽいこうか」と声をかけると、息子がくつしたを探しにハイハイで駆け出す。
見つけたはいいけど、左右バラバラ。
しかも、片方はぬいぐるみの下に。
自分で履こうとするけれど、かかとがどこか分からず悪戦苦闘。
それでも「できたー!」と、ドヤ顔で立ち上がる。
たった一足のくつしたが、こんなにもドラマチックな朝になるなんて――
今日も、いい一日になりそうだ。
「おさんぽいこうか」と声をかけると、息子がくつしたを探しにハイハイで駆け出す。
見つけたはいいけど、左右バラバラ。
しかも、片方はぬいぐるみの下に。
自分で履こうとするけれど、かかとがどこか分からず悪戦苦闘。
それでも「できたー!」と、ドヤ顔で立ち上がる。
たった一足のくつしたが、こんなにもドラマチックな朝になるなんて――
今日も、いい一日になりそうだ。
午前中、ずっと泣いていた息子がようやくお昼寝。
リビングに、ひさびさの静けさが戻ってくる。
台所で、急いでインスタントコーヒーを淹れて、
お気に入りのカップに注ぐ。
椅子にすわって、深呼吸。
ほんの5分でも、「わたし」に戻れるこの時間が、とびきりのごほうびだと思う。
息子の寝顔をちらっと見て、「もうちょっと寝てていいよ」と、そっと願う昼下がり。
「じぶんで、やる!」と息子が言った。
まだまだうまくいかないのは知ってるけれど、今日は、そっとスプーンを渡してみた。
ぐにゃっと曲がった手つきで、ヨーグルトをすくって、ぽとぽと垂らしながら、口に運ぶ。
…届いた。にこっと笑う顔に、わたしも思わず拍手した。
「できた!」は、ぐちゃぐちゃでも、立派な一歩。
わたしの手を離れていくことが、ちょっとだけ、誇らしく思えた朝だった。
午後のまどろみの中、絵本をひらいた。
わたしのひざの上で、じっとページを見つめる小さな背中。
物語の意味なんて、まだきっとわかってない。
でも、めくるたびにじっと聞いてくれて、たまに顔を見上げて、にっこり笑う。
この時間が、あとどれだけ続くんだろう。
そのことを考えると、今日の1ページがいっそう大切に思えた。
朝からなんだかバタバタで、気持ちもどこかピリピリ。
洗濯物を干している途中で、おもちゃを踏んづけて「痛っ!」
思わずイライラが噴き出しかけたとき、リビングから息子の笑い声が響いた。
何がそんなにおかしいのか、ケラケラ笑うその声。
なんだか、それを聞いただけで、怒る気がなくなった。
笑い声って、魔法みたいだ。
泣き声に慣れたこの耳には、笑い声がごほうびに聞こえる朝だった。
朝、棚の奥から見つけた、小さなイヤリング。
つける余裕なんてなかったけど、今日はなぜか手が伸びた。
鏡の前でちょっとだけ首をかしげて、「ああ、こういうの好きだったな」って思い出す。
オムツとおもちゃとエプロンに囲まれた毎日の中でも、“ママ”の奥にはちゃんと“わたし”がいた。
たったひとつのイヤリングが、それをそっと教えてくれた気がした。
息子は母の腕の中で、すやすやと寝息を立てていた。
その間に、母が作ってくれたのは、わたしが子どものころ好きだった煮物。
ひと口食べた瞬間、思わずぽろっと涙がこぼれた。
「なんか……今のわたしに、ちょうどよかった」
そう言うと、母はふふっと笑って、「育ててるんだもん、泣く日くらいあるでしょ」って。
“お母さん”と“娘”の両方をやってるわたしを、その日は、ちゃんと“娘”に戻してくれた。
母のごはんは、やっぱりおかえりの味だった。
九月最初の朝。 昨日までと同じ時間に起き、同じように朝食を作り、水筒を用意する。カレンダーを一枚めくったところで、子どもが言った。 「今日から九月だね」 「そうだね」 たったそれだけなのに、新しい月が始まったことが少し嬉しかった。 玄関を出ると、日差しにはまだ夏の強さが残って...