2026年9月3日木曜日

第34話 子育て 帰り道『おかえりの空』


 昨日、子どもが自分で結んだ靴ひもを、何度も嬉しそうに見ていた。その顔を思い出しながら迎えに行くと、今日は少し元気がない。

「どうしたの?」

「うまくできなかったことがあったの」

詳しく聞いても、それ以上は話したくないらしい。

「そっか」

それだけ言って、いつもの帰り道を並んで歩いた。

 昨日は「できた」と笑っていたのに、今日は「できなかった」でしょんぼりしている。

毎日が昨日より上手にいくわけではない。それは子どもも、大人も同じだ。

 公園の前まで来たとき、夕焼けに気づいた。

「見て。空、きれいだよ」

子どもが顔を上げる。

夏より少し高くなった空に、薄い雲が桃色に染まっていた。

 「明日はできるかな」

ぽつりと聞かれた。

「できるかもしれないし、できないかもしれない。でも、またやってみたらいいよ」

少し考えてから、子どもは「うん」とうなずいた。

 家の近くまで来るころには、いつもの歩幅に戻っていた。

できた日も、できなかった日も、最後には「おかえり」と迎えてくれる場所がある。

今日の幸せは、そんな一日の終わりに一緒に見上げた、やさしい夕焼けだった。

今日のこころの花🌼

うまくいかなかったことがあっても、今日は今日でおしまい。空を見上げて、明日の自分にそっと渡してみましょう。


#子育て
#子どもの気持ち
#親子時間 

2026年9月2日水曜日

第33話 子育て 朝時間『できたの一言』


 昨日、九月最初の風を見つけた朝。今朝も玄関を開けると、まだ夏の名残を抱えた空気が家の中へ入ってきた。

出かける準備をしていると、子どもが靴の前でしゃがみ込んだ。

いつもなら「やって」と差し出してくる靴ひもを、今日は自分で結ぼうとしている。

一度目は、ほどけた。

二度目も、うまく輪にならない。

時計を見ると、そろそろ出たい時間だった。

 「お母さんがやろうか?」

そう言いかけて、昨日までのことを思い出す。

待つこと。任せること。少し後ろから見守ること。

私は言葉を飲み込み、隣にしゃがんだ。

 三度目。

小さな指がゆっくり動いて、少しいびつな蝶々結びができた。

「できた!」

顔を上げた子どもの表情は、朝の光より明るかった。

「ほんとだ。できたね」

 玄関を出ると、道端に小さな落ち葉が転がっていた。子どもは結んだ靴ひもを何度も見ながら、いつもより少し胸を張って歩いている。

ほんの数分待っただけ。

でも、その数分がなければ、私はこの「できた」に出会えなかった。

 子どもが一つできるようになるたび、私も一つ、待てるようになる。

親子の成長は、きっとこうして並んで歩いていくのだ。

今日のこころの花🌼

今日は誰かの挑戦を少しだけ待ってみましょう。「できた」に出会える時間を、大切にしてみてください。


#子育て
#子どもの成長
#見守る子育て 

2026年9月1日火曜日

第32話 子育て 秋の気配『新しい朝』


 九月最初の朝。

昨日までと同じ時間に起き、同じように朝食を作り、水筒を用意する。カレンダーを一枚めくったところで、子どもが言った。

「今日から九月だね」

「そうだね」

たったそれだけなのに、新しい月が始まったことが少し嬉しかった。

 玄関を出ると、日差しにはまだ夏の強さが残っている。セミも鳴いているし、歩けばすぐに汗がにじむ。

それでも、角を曲がったところで吹いてきた風は、昨日よりほんの少し軽く感じられた。

「秋の風かな」

私が言うと、子どもは両手を広げて風を受け止める。

「ほんとだ。ちょっと涼しい!」

二人で顔を見合わせて笑った。

 八月の初めには、朝の支度を終えて家を出るだけで精いっぱいだった。

今だって忙しいことに変わりはない。

でも、道端の花や空の色、風の匂いに気づく余裕が、少しだけできた気がする。

 昨日、九月には何があるのだろうと話したばかりなのに、もう一つ見つけた。

新しい季節は、大きな音を立ててやってくるわけではない。

いつもの朝に混じった、小さな違いから始まる。

 「行こうか」

子どもの手を握る。

九月最初の幸せは、いつもの道に吹いた新しい風だった。

今日のこころの花🌼

今日は昨日と違うものを一つ探してみましょう。小さな変化に気づくことが、新しい楽しみの始まりになります。


#子育て
#秋の気配
#小さな幸せ 

2026年8月31日月曜日

第31話 子育て 夏の終わり『明日の花』


 昨日、朝顔から取った一粒の種を、小さな紙袋に入れた。子どもはそこに、覚えたての字で「あさがお」と書いた。

 月曜日の朝。その袋を引き出しにしまいながら、「また来年ね」と子どもが言う。

玄関を出ると、八月最後の日とは思えないほど日差しは強かった。それでも吹き抜ける風には、ほんの少し涼しさが混じっている。

 いつもの道を歩きながら、この一か月を思った。

朝顔を眺めた朝も、雨の水たまりも、桃を半分こした日も、遠回りした夕方も、特別な出来事ではなかった。

それなのに今思い返すと、どの日にも小さな幸せがあった。

 「明日から九月だね」

そう言うと、子どもが尋ねた。

「九月は何があるの?」

少し考えてから答える。

「まだ知らないよ。だから楽しみなんじゃない?」

子どもは「そっか」と笑い、私の手を握った。

 一か月前の私は、毎日を無事に終えるだけで精いっぱいだった気がする。

今も忙しさは変わらない。

でも、空を見上げたり、風の音を聞いたり、小さな手のぬくもりに気づいたりすることは、少し上手になった。

 幸せは、遠くへ探しに行かなくてもいい。

今日の暮らしの中に、小さな種のように隠れている。

明日は、どんな花を見つけられるだろう。

そう思うと、新しい季節が少し楽しみになった。

今日のこころの花🌼

今日見つけた小さな幸せを一つ覚えておきましょう。その気づきが、明日の心に新しい花を咲かせます。


#子育て
#夏の終わり
#小さな幸せ 

2026年8月30日日曜日

第30話 子育て 夏の思い出『宝物を数える日』


 昨日の水遊びで濡れたタオルは、朝の風に気持ちよさそうに揺れていた。

 日曜日。朝食を終えると、子どもが冷蔵庫に貼った夏の絵を眺めながら言った。

「夏、いっぱい遊んだね」

その一言で、この一か月の景色が次々と浮かんできた。

 朝顔が咲いた朝。雨の日の水たまり。二人で見上げたひこうき雲。桃を半分こしたこと。眠る前に読んだ絵本。遠回りして見つけた赤いトンボ。そして昨日の水しぶき。

「何がいちばん楽しかった?」

尋ねると、子どもはしばらく考えてから答えた。

「ぜんぶ」

思わず笑ってしまった。

 特別な旅行をしたわけでも、大きな出来事があったわけでもない。それでも、この子にとっては毎日の小さな出来事が、ちゃんと夏の思い出になっていた。

 窓辺では、乾いた朝顔の種が風に揺れている。

私は小さな袋を用意し、子どもと一緒に一つだけ種を取った。

「来年、また咲くかな」

「きっと咲くよ」

思い出も、この種と同じなのかもしれない。

 心の中に残しておけば、いつか懐かしい笑顔を咲かせてくれる。

夏の終わりに数えてみたら、わが家には思っていた以上にたくさんの宝物があった。

今日のこころの花🌼

今日は最近あった嬉しいことを三つ思い出してみましょう。何気ない毎日の中にも、心の宝物はきっとあります。


#子育て
#夏の思い出
#小さな幸せ 

2026年8月29日土曜日

第29話 子育て 夏の思い出『最後の水遊び』


 昨日、草むらから聞こえた虫の声に、秋の気配を見つけた。それでも土曜日の空には、まだ夏らしい青さが広がっていた。

 「水遊びしたい!」

朝から子どもにせがまれ、ベランダに小さなビニールプールを出した。

水を張ると、子どもは待ちきれない様子で足を入れる。

「つめたーい!」

 勢いよく上がった水しぶきが私の服まで飛んできた。

「ちょっと、濡れちゃったじゃない」

そう言いながら、気づけば私も手ですくった水をかけ返していた。

子どもが笑う。私も笑う。

洗濯物が増えるとか、床が濡れるとか、そんなことは今日はどうでもよくなった。

 しばらく遊んだあと、二人で冷たい麦茶を飲む。風に揺れる朝顔には、もう花はほとんどなく、茶色くなった種が夏の日差しを受けていた。

「また来年もやろうね」

子どもが言う。

その「来年」という言葉に、少しだけ胸がきゅっとした。

 来年の夏、この子は今より大きくなっている。

同じプールで遊ぶだろうか。まだ水をかけて笑ってくれるだろうか。

だからこそ、今日をちゃんと楽しもう。

 夏は終わっていく。でも、楽しかった時間まで消えるわけではない。

濡れた服を干しながら、今日の笑い声も心の中にそっと干しておきたいと思った。

今日のこころの花🌼

今日は「また今度」にせず、今できる小さな楽しみを一つ味わってみましょう。今日の時間は、今日だけの宝物です。


#子育て
#夏の思い出
#親子時間 

2026年8月28日金曜日

第28話 子育て 夏の夕暮れ『虫の声』


 昨日、「秋って何がある?」と尋ねた子どもに、どんぐりや金木犀の話をした。そのせいか、今日はいつもより季節の変化が気になった。

 金曜日の夕方。迎えを終えて家へ向かうころには、まだ暑さが残っているのに、空は少し早く夕暮れ色になっていた。

いつもの公園の横を通ると、子どもが突然足を止める。

「お母さん、聞こえる?」

耳を澄ますと、セミの声に混じって、草むらから小さな虫の音が聞こえてきた。

「秋の声かな」

そう言うと、子どもも真剣な顔で耳を澄ませる。

 二人で黙っていると、風が頬をなで、木の葉がさらさらと揺れた。

ほんの数分なのに、街にはいろいろな音があることに気づく。

 家に着くと、朝顔の種が茶色く乾き始めていた。

「これ、取っていい?」

「もう少し待ってみようか」

子どもは「そっか」とうなずいた。

何でも早くしたくなる毎日だけれど、花にも種にも、その時が来るまで待つ時間がある。

 そして季節も、急に変わるわけではない。

夏の中に少しずつ秋が混ざっていく。

今日の幸せは、そんな小さな変化を、子どもと一緒に聞けたことだった。

今日のこころの花🌼

今日は一分だけ静かに耳を澄ませてみましょう。いつもの暮らしの中にも、季節を知らせる音が隠れています。


#子育て
#夏の終わり
#季節を感じる


 

第51話 子育て 秋散歩『拾わない宝物』

 日曜日の午後、子どもといつもの公園へ出かけた。 「今日は、どんぐり四号を探す!」 張り切って歩き始めたけれど、なかなか見つからない。 その代わり、道の端に赤く色づき始めた葉を見つけた。 「これ、持って帰ろうかな」 子どもが手を伸ばしかけて、ふと止まった。  葉の上に、小さなてん...