2026年9月7日月曜日

第38話 子育て 月曜日『残してくれた席』


 月曜日の朝。昨日作った「どんぐりのおうち」は、食卓の端に大切そうに置かれていた。

「ここ、お母さんが描いた木」

子どもが指さす。たった一本描いただけなのに、ちゃんと覚えているらしい。

「覚えてたの?」

「だって、一緒に作ったから」

その一言を胸にしまって、慌ただしい一日が始まった。

 夕方、帰宅すると、私は洗濯物を取り込み、夕食の支度へ。子どもは食卓で絵を描いていた。

「お母さん、見て」

「ちょっと待ってね」

そう答えてから、昨日のことを思い出した。

 私は火を弱め、子どもの隣へ行く。

画用紙には、大きな木と、二人らしい人が描かれていた。その横には、小さな丸が一つ。

「これ、どんぐり一号?」

「うん。それでね、ここがお母さんの場所」

子どもが指したのは、自分の隣だった。

胸の奥が、ふっと温かくなる。

 一緒にいる時間は、長さではないのかもしれない。ほんの数分でも、心を向けた時間は、子どもの中にちゃんと残っている。

「ありがとう。お母さん、ここがいいな」

子どもは満足そうに笑った。

 忙しい月曜日。

今日の幸せは、画用紙の中に残してくれた、私の小さな居場所だった。

今日のこころの花🌼

今日は大切な人のそばで、ほんの数分だけ手を止めてみましょう。心を向ける時間を大切に。


#子育て
#親子時間
#小さな幸せ 

2026年9月6日日曜日

第37話 子育て 秋の休日『どんぐりの居場所』


 昨日拾った「どんぐり一号」は、朝になっても食卓の隅にちょこんと置かれていた。

日曜日。子どもは朝食を終えるなり、空き箱や折り紙を持ってきた。

「どんぐりのおうち作る」

箱の中に緑の折り紙を敷き、色鉛筆で木や雲を描いていく。私は隣で洗濯物をたたみながら、その様子を眺めていた。

「お母さんもやって」

差し出された茶色の色鉛筆。

 やることはまだ残っている。でも、昨日までの私なら「あとでね」と答えていたかもしれない。

「じゃあ、木を一本だけ」

隣に座り、大きな木を描いた。

子どもはそこへ小さな赤い実を足し、「秋の木!」と笑う。

 窓から入る風が、夏より少し涼しくなっていた。遠くから聞こえるセミの声に、秋の虫の音が重なっている。

完成した箱の真ん中に、どんぐり一号を置いた。

たった一つの木の実なのに、立派な宝物に見える。

子どもにとって大切なのは、物の値段でも大きさでもないのだろう。

 一緒に拾ったこと。一緒に作ったこと。そして「見て」と言ったとき、誰かが隣にいてくれたこと。

今日の幸せは、どんぐり一つから広がった、何でもない日曜日の時間だった。

今日のこころの花🌼

今日は誰かの「見て」に少しだけ手を止めて応えてみましょう。一緒に見る時間が、小さな思い出を育てます。


#子育て
#親子工作
#秋の暮らし 

2026年9月5日土曜日

第36話 子育て 秋散歩『どんぐり一号』


 昨日、子どもが自分から失敗したことを話してくれた。その小さな勇気が嬉しくて、土曜日の朝は少し穏やかな気持ちで始まった。

まだ日差しは夏のように強い。それでも朝の風は軽く、今日は久しぶりに、いつもの公園まで歩いてみることにした。

 木陰に入ったところで、子どもが突然しゃがみ込む。

「あった!」

小さな手のひらに乗っていたのは、まだ緑色の残るどんぐりだった。

「秋、見つけたね」

 九月になったら何があるのだろう、と話したのは数日前のこと。子どもは宝物を見つけたように、何度もどんぐりを眺めている。

「これ、持って帰っていい?」

「もちろん」

ポケットへ大切そうにしまう姿を見ながら、ふと思った。

 大人になると、季節はカレンダーで知ることが多くなる。

でも子どもは、風に触れ、虫の声を聞き、落ちている木の実を拾って季節を見つけていく。

帰り道、小さな花屋の前には、夏とは違う色の花が少しずつ増えていた。

 家に着くと、子どもはどんぐりを机の上に置き、「秋、一個目」と笑った。

その言葉がなんだか嬉しい。

季節は過ぎていくものではなく、一つずつ見つけていくものなのかもしれない。

わが家の秋は、手のひらに乗る小さなどんぐりから始まった。

今日のこころの花🌼

今日は季節の変化を一つ探してみましょう。風や空、草花の小さな違いが、暮らしを少し豊かにしてくれます。


#子育て
#秋の散歩
#季節を感じる 

2026年9月4日金曜日

第35話 子育て 親子時間『話したくなるまで』


 昨日の帰り道、子どもは「うまくできなかったことがあった」とだけ話した。何があったのか気になったけれど、それ以上は聞かなかった。

 金曜日の夕食後。私が洗った食器を拭いていると、隣で子どもがぽつりと言った。

「昨日ね、みんなの前で間違えたの」

手を止めそうになったけれど、そのまま皿を拭きながら「うん」と答えた。

「ちょっと笑われた」

胸がきゅっとした。すぐに「誰に?」「先生は?」と聞きたくなる。でも、今はこの子が自分から話している。

「恥ずかしかったんだね」

「うん。でも今日、もう一回やったらできた」

 見ると、少し照れた顔で笑っていた。

「そっか。もう一回やったんだ」

それだけ伝えると、子どもは嬉しそうにうなずいた。

 窓の外からは、秋の虫の声が聞こえている。

親だから、何でも知っていたい。困っていたら、すぐ助けたい。

でも、話したくなるまで待つことも、この子を信じることなのかもしれない。

昨日、無理に聞き出さなくてよかった。

 子どもには、自分の気持ちを自分の言葉にする時間が必要なのだ。

今日の幸せは、「できた」ことよりも、話してくれたこと。

「聞いてくれてありがとう」

そう言うと、子どもは少し不思議そうに、そして嬉しそうに笑った。

今日のこころの花🌼

今日は誰かの話を答えや助言で急がず、最後まで聞いてみましょう。待つことも、相手を大切にする時間です。


#子育て
#親子コミュニケーション
#子どもの気持ち 

2026年9月3日木曜日

第34話 子育て 帰り道『おかえりの空』


 昨日、子どもが自分で結んだ靴ひもを、何度も嬉しそうに見ていた。その顔を思い出しながら迎えに行くと、今日は少し元気がない。

「どうしたの?」

「うまくできなかったことがあったの」

詳しく聞いても、それ以上は話したくないらしい。

「そっか」

それだけ言って、いつもの帰り道を並んで歩いた。

 昨日は「できた」と笑っていたのに、今日は「できなかった」でしょんぼりしている。

毎日が昨日より上手にいくわけではない。それは子どもも、大人も同じだ。

 公園の前まで来たとき、夕焼けに気づいた。

「見て。空、きれいだよ」

子どもが顔を上げる。

夏より少し高くなった空に、薄い雲が桃色に染まっていた。

 「明日はできるかな」

ぽつりと聞かれた。

「できるかもしれないし、できないかもしれない。でも、またやってみたらいいよ」

少し考えてから、子どもは「うん」とうなずいた。

 家の近くまで来るころには、いつもの歩幅に戻っていた。

できた日も、できなかった日も、最後には「おかえり」と迎えてくれる場所がある。

今日の幸せは、そんな一日の終わりに一緒に見上げた、やさしい夕焼けだった。

今日のこころの花🌼

うまくいかなかったことがあっても、今日は今日でおしまい。空を見上げて、明日の自分にそっと渡してみましょう。


#子育て
#子どもの気持ち
#親子時間 

2026年9月2日水曜日

第33話 子育て 朝時間『できたの一言』


 昨日、九月最初の風を見つけた朝。今朝も玄関を開けると、まだ夏の名残を抱えた空気が家の中へ入ってきた。

出かける準備をしていると、子どもが靴の前でしゃがみ込んだ。

いつもなら「やって」と差し出してくる靴ひもを、今日は自分で結ぼうとしている。

一度目は、ほどけた。

二度目も、うまく輪にならない。

時計を見ると、そろそろ出たい時間だった。

 「お母さんがやろうか?」

そう言いかけて、昨日までのことを思い出す。

待つこと。任せること。少し後ろから見守ること。

私は言葉を飲み込み、隣にしゃがんだ。

 三度目。

小さな指がゆっくり動いて、少しいびつな蝶々結びができた。

「できた!」

顔を上げた子どもの表情は、朝の光より明るかった。

「ほんとだ。できたね」

 玄関を出ると、道端に小さな落ち葉が転がっていた。子どもは結んだ靴ひもを何度も見ながら、いつもより少し胸を張って歩いている。

ほんの数分待っただけ。

でも、その数分がなければ、私はこの「できた」に出会えなかった。

 子どもが一つできるようになるたび、私も一つ、待てるようになる。

親子の成長は、きっとこうして並んで歩いていくのだ。

今日のこころの花🌼

今日は誰かの挑戦を少しだけ待ってみましょう。「できた」に出会える時間を、大切にしてみてください。


#子育て
#子どもの成長
#見守る子育て 

2026年9月1日火曜日

第32話 子育て 秋の気配『新しい朝』


 九月最初の朝。

昨日までと同じ時間に起き、同じように朝食を作り、水筒を用意する。カレンダーを一枚めくったところで、子どもが言った。

「今日から九月だね」

「そうだね」

たったそれだけなのに、新しい月が始まったことが少し嬉しかった。

 玄関を出ると、日差しにはまだ夏の強さが残っている。セミも鳴いているし、歩けばすぐに汗がにじむ。

それでも、角を曲がったところで吹いてきた風は、昨日よりほんの少し軽く感じられた。

「秋の風かな」

私が言うと、子どもは両手を広げて風を受け止める。

「ほんとだ。ちょっと涼しい!」

二人で顔を見合わせて笑った。

 八月の初めには、朝の支度を終えて家を出るだけで精いっぱいだった。

今だって忙しいことに変わりはない。

でも、道端の花や空の色、風の匂いに気づく余裕が、少しだけできた気がする。

 昨日、九月には何があるのだろうと話したばかりなのに、もう一つ見つけた。

新しい季節は、大きな音を立ててやってくるわけではない。

いつもの朝に混じった、小さな違いから始まる。

 「行こうか」

子どもの手を握る。

九月最初の幸せは、いつもの道に吹いた新しい風だった。

今日のこころの花🌼

今日は昨日と違うものを一つ探してみましょう。小さな変化に気づくことが、新しい楽しみの始まりになります。


#子育て
#秋の気配
#小さな幸せ 

第51話 子育て 秋散歩『拾わない宝物』

 日曜日の午後、子どもといつもの公園へ出かけた。 「今日は、どんぐり四号を探す!」 張り切って歩き始めたけれど、なかなか見つからない。 その代わり、道の端に赤く色づき始めた葉を見つけた。 「これ、持って帰ろうかな」 子どもが手を伸ばしかけて、ふと止まった。  葉の上に、小さなてん...