2026年9月20日日曜日

第51話 子育て 秋散歩『拾わない宝物』


 日曜日の午後、子どもといつもの公園へ出かけた。

「今日は、どんぐり四号を探す!」

張り切って歩き始めたけれど、なかなか見つからない。

その代わり、道の端に赤く色づき始めた葉を見つけた。

「これ、持って帰ろうかな」

子どもが手を伸ばしかけて、ふと止まった。

 葉の上に、小さなてんとう虫がいた。

「あ、使ってる」

その言い方がおかしくて、二人で笑った。

「じゃあ、これは置いていこう」

しゃがんだまま、しばらく眺める。

 九月の風が木々を揺らし、昨日より少しだけ秋色が増えた公園に、木漏れ日が落ちていた。

これまで、どんぐりや朝顔の種を見つけるたび、持ち帰ることが宝物になるのだと思っていた。

でも、持って帰らなくても心に残るものがある。

 子どもは立ち上がると、「また会えるかな」と振り返った。

「会えるかもしれないね」

結局、どんぐり四号は見つからなかった。

それでも帰り道、子どもは満足そうだった。

 今日の幸せは、ポケットには入らない。

親子でそっと置いてきた、赤い葉っぱの上の小さな命だった。

今日のこころの花🌼

今日は心に残った景色を一つ、持ち帰らずに眺めてみましょう。見るだけでも宝物になるものがあります。


#子育て
#秋の散歩
#小さな幸せ 

2026年9月19日土曜日

第50話 子育て 秋の休日『ゆっくり朝ごはん』


 土曜日の朝。

目覚ましを止めてから、いつもより少し長く布団の中にいた。昨日、子どもに言われた「おつかれさま」が、まだ心のどこかに残っている。

「今日の朝ごはん、ぼくも作る」

起きてきた子どもが、そう言った。

 二人で食パンを焼き、ヨーグルトを器に入れる。子どもはバナナを一生懸命ちぎって、その上に並べた。

「できた!」

見た目は少し不揃い。でも、いつもの朝食がなんだか特別に見えた。

 平日の朝なら、食べながら時計を見て、「早くして」が何度も出てくる。

今日は時計を気にせず、昨日の虫の声のことや、今度どんぐりを拾いに行こうという話をしながら、ゆっくり食べた。

窓から入る風は、もう夏の朝とは違っていた。

「土曜日っていいね」

子どもが言う。

「どうして?」

「ゆっくりできるから」

その答えに笑いながら、私は温かい飲み物をもう一口。

 休むことは、何もしないことだけではない。

好きな人と、いつものことをゆっくりするのも休息なのだ。

今日の幸せは、少し不揃いなバナナが並んだ、のんびり朝ごはんだった。

今日のこころの花🌼

今日はいつものことを一つだけ、ゆっくりやってみましょう。急がない時間も、心を休ませてくれます。


#子育て
#休日の朝
#親子時間 

2026年9月18日金曜日

第49話 子育て 金曜日『おつかれさま』


 金曜日の夕方。家に着くと、私は買い物袋を床に置いて、「ああ、疲れた」と小さく息を吐いた。

一週間が終わるころには、体も心も少し重くなる。

すると、靴を脱いでいた子どもが私の顔を見上げた。

「お母さん、おつかれさま」

思いがけない言葉に、私は一瞬黙ってしまった。

「ありがとう。あなたもおつかれさま」

そう返すと、子どもは少し照れたように笑った。

 夕食は簡単なものにした。洗濯物も、今日はたたまず籠の中。食後には二人で温かい飲み物を飲んだ。

窓の外では、昨日聞いた秋の虫たちが今夜も鳴いている。

「今週もいっぱいあったね」

子どもが言う。

長い影を追いかけたこと。靴下を探して笑ったこと。どんぐりをポケットに入れて歩いたこと。

 振り返ってみれば、忙しかった一週間の中にも、小さな幸せがいくつもあった。

頑張ったことは、誰かに褒めてもらわなくてもいい。

でも、ときどき「おつかれさま」と言ってもらえると、心が少しほどける。

 今日の幸せは、一週間の終わりに親子で贈り合った、やさしい一言だった。

今日のこころの花🌼

一週間頑張った自分と大切な人に、「おつかれさま」と声をかけて、心をゆっくり休ませましょう。


#子育て
#おつかれさま
#心を休める 

2026年9月17日木曜日

第48話 子育て 秋の夜『小さな音楽会』


 木曜日の夜。夕食を終えて窓を少し開けると、涼しい風と一緒に虫の声が入ってきた。

「お母さん、聞いて」

子どもが人差し指を口元に当てる。

二人で黙ると、「リーン、リーン」という高い声。その奥からは、違う調子の小さな声も聞こえる。

「何匹いるのかな」

「いっぱいじゃない?」

 テレビをつけようとしていた手を止め、そのまま二人で耳を澄ませた。

少し前まで、夜になってもセミの声が残っていた。それがいつの間にか、秋の虫たちに交代している。

 昨日は長く伸びた影を追いかけた。今日は姿の見えない虫の声を追いかけている。

「これ、音楽みたいだね」

子どもが言った。

「じゃあ、秋の音楽会だ」

そう答えると、嬉しそうに笑った。

 何かを見つけるには、目を凝らすだけではないらしい。

耳を澄ませれば、いつもの夜にも季節はちゃんとやってくる。

テレビのない数分間、親子でただ静かに聞いていた。

今日の幸せは、窓の向こうから届いた、入場料のいらない小さな音楽会だった。

今日のこころの花🌼

今日は一分だけ静かな時間をつくり、周りの音に耳を澄ませてみましょう。季節の声が見つかるかもしれません。


#子育て
#秋の虫
#季節を感じる 

2026年9月16日水曜日

第47話 子育て 秋の夕方『影が伸びた日』


 水曜日の帰り道。

「お母さん、ぼく大きくなった!」

突然、子どもが立ち止まった。

何のことかと思えば、夕日に照らされた足元から、細長い影が道の向こうまで伸びている。

「ほんとだ。お母さんより大きいね」

私も隣に並ぶと、二本の影が仲良く並んだ。

 子どもが両手を広げる。影も大きく手を広げる。片足を上げる。影も同じ格好をする。

「お母さんもやって!」

買い物袋を持ったまま、私も片手を上げてみた。

道の上で、二つの影が踊っている。

 少し前なら「早く帰るよ」と急かしていたかもしれない。

昨日はなくした靴下を探して三分。今日は影と遊んで三分。

不思議なことに、そのくらいの寄り道では、暮らしは困らないらしい。

「明日も大きくなるかな?」

「どうかな。影はお日さま次第かな」

子どもは自分の影を追いかけながら歩き始めた。

 九月になって、夕暮れは少しずつ早くなった。

短くなる昼の時間にも、こんな楽しみが隠れている。

今日の幸せは、夕暮れの道に現れた、いつもより大きな二人だった。

今日のこころの花🌼

今日は足元や空を少し眺めてみましょう。いつもの景色にも、季節がくれた遊び心が隠れています。


#子育て
#秋の夕暮れ
#親子時間 

2026年9月15日火曜日

第46話 子育て 秋の朝『片方だけの靴下』


 火曜日の朝。

「ない!」

子どもの声がして振り向くと、片方だけ靴下を履いたまま、洗濯かごをのぞき込んでいた。

「もう、昨日ちゃんと出した?」

言いながら、私も一緒に探し始める。

ソファの下、洗面所、子ども部屋。時計を見るたび、心が少しずつせわしなくなる。

「だからいつも――」

そこまで言ったとき、昨日のどんぐりが目に入った。

 楽しかった時間を心のポケットに入れて、今日へ持っていく。昨日、そんなことを思ったばかりだった。

「まあ、靴下は逃げないか」

そう言うと、子どもが笑った。

「逃げたかもしれないよ」

二人で笑いながら探すと、ベッドの端から白いものがのぞいていた。

「あった!」

 子どもが得意そうに引っぱり出す。

「靴下、かくれんぼしてたね」

結局、家を出たのはいつもより三分遅かった。

それでも玄関を出るころには、さっきまでの焦りは消えていた。

 毎朝、何もかもうまくいくわけじゃない。

でも、困ったことまで笑える日なら、それも悪くない。

今日の幸せは、見つかった靴下より、二人で笑えた三分間だった。

今日のこころの花🌼

予定どおりにいかないときこそ、ひと呼吸。困った出来事の中にも、笑えることを一つ探してみましょう。


#子育て
#忙しい朝
#小さな幸せ 

2026年9月14日月曜日

第45話 子育て 月曜日『ポケットの秋』


 月曜日の朝。玄関で靴を履こうとした子どもが、昨日のズボンのポケットに手を入れた。

「あった!」

出てきたのは、昨日の遠回りで拾った二つのどんぐり。

「忘れてたの?」

「忘れてないよ。入れてたの」

その言い方がおかしくて、二人で笑った。

 週の始まりは慌ただしい。水筒を確認して、忘れ物はないか確かめて、時計を見ながら家を出る。

歩き始めてしばらくすると、子どもがポケットをぽんぽんと叩いた。

「どんぐりも一緒に行ってる」

昨日は公園で見つけた秋が、今日はポケットの中にいるらしい。

「重くない?」

「ぜんぜん。宝物だから」

 その言葉を聞いて、ふと思った。

楽しかった時間は、その場所に置いてくるものではないのかもしれない。

目には見えなくても、嬉しかったことや笑ったことを、私たちは心のポケットに入れて次の日へ持っていける。

昨日の遠回りも、今朝の笑い声も、きっとそう。

 角を曲がると、少し涼しい風が吹いた。

忙しい月曜日にも、昨日の幸せはちゃんとついてきてくれる。

今日の幸せは、歩くたび小さく鳴る、ポケットの中の秋だった。

今日のこころの花🌼

昨日の嬉しかったことを一つ思い出してみましょう。心のポケットに入れて、今日へ連れていきましょう。


#子育て
#秋の暮らし
#小さな幸せ 

2026年9月13日日曜日

第44話 子育て 秋散歩『遠回りの日曜日』


 日曜日の夕方、買い物を終えて家へ向かっていると、子どもがいつもの角で立ち止まった。

「今日は、こっちから帰ろうよ」

指さしたのは、公園をぐるりと回る遠回りの道。

少し迷った。買ったものは重いし、帰れば夕食の支度もある。

 でも昨日、何もしない朝を過ごしてみて、急がない時間も悪くないと知ったばかりだ。

「じゃあ、今日はこっち」

子どもの後をついて歩いた。

 公園では、夏には青々としていた木の葉が、ほんの少し黄色くなっている。

「あ、秋が増えてる」

子どもが嬉しそうに指さした。

その先には、風に揺れるすすき。足元には小さなどんぐりが二つ。

「どんぐり二号と三号!」

拾い上げた子どもが笑う。

 九月最初の土曜日に見つけた一号には、もう仲間ができた。

遠回りしたぶん、夕食は少し遅くなる。

でも、そのぶん私たちは、黄色い葉とすすきと二つのどんぐりに出会えた。

 近道は早く着く。

けれど遠回りでしか見つからないものもある。

今日の幸せは、急がなかったから出会えた、小さな秋の続きだった。

今日のこころの花🌼

今日は少しだけ、いつもと違う道を選んでみましょう。遠回りの中に、新しい景色が待っているかもしれません。


#子育て
#秋の散歩
#小さな幸せ 

2026年9月12日土曜日

第43話 子育て 秋の休日『何もしない朝』


 土曜日の朝、目を覚ますと、カーテンの隙間からやわらかな光が差し込んでいた。

 昨日は「できない日もある」と子どもに教えてもらったばかり。

今日は急いで起きなくてもいい。そう思ったのに、頭の中には洗濯、掃除、買い物と、やることが次々浮かんでくる。

布団を出ようとしたとき、隣から小さな声がした。

「もうちょっと、ごろごろしようよ」

見ると、子どもが枕を抱えて笑っている。

「でも、洗濯が……」

言いかけて、やめた。

「じゃあ、五分だけね」

二人で並んで天井を眺める。

 窓の外では鳥が鳴き、風に揺れたカーテンがふわりと膨らんだ。

「気持ちいいね」

子どもが言う。

本当だ。

何もしていないのに、なんだか満たされている。

 いつから私は、休むことにも理由が必要だと思うようになったのだろう。

五分のつもりが、少し長くなった。

それでも洗濯物は逃げないし、朝ごはんが少し遅くても困らない。

 忙しい毎日には、何かをする時間だけでなく、何もしない時間もあっていい。

今日の幸せは、予定表には書かれていない、親子でごろごろした朝だった。

今日のこころの花🌼

今日は五分だけ、何もしない時間をつくってみましょう。休むことも、自分を整える大切な時間です。


#子育て
#頑張りすぎない
#心を休める 

2026年9月11日金曜日

第42話 子育て 金曜日『できない日もある』


 金曜日の朝から、なんとなく調子が出なかった。

洗濯物を干すのが遅れ、出かける直前に探し物。帰宅すれば、買うはずだった牛乳を忘れていることに気づいた。

「今日、だめだなあ」

夕食の支度をしながら、思わずつぶやいた。

 すると、そばにいた子どもが言った。

「お母さんも、できない日あるの?」

一瞬、答えに迷ってから笑った。

「あるよ。いっぱいある」

「ぼくと一緒だね」

その言葉に、肩の力が抜けた。

 先週、みんなの前で間違えたことを恥ずかしそうに話してくれた子ども。そのとき私は、「またやってみたらいい」と伝えた。

なのに、自分には「ちゃんとしなきゃ」と言い続けていたらしい。

 冷蔵庫にあるもので簡単な夕食を作り、二人で食卓につく。

「これ、おいしいよ」

「ほんと?」

「うん。だから今日は、だめじゃないよ」

 窓の外から秋の虫の声が聞こえた。

できなかったことがいくつあっても、それだけで一日全部が失敗になるわけではない。

今日の幸せは、子どもの言葉に教えてもらったこと。

できない日がある私も、ちゃんと私なのだ。

今日のこころの花🌼

できなかったことではなく、今日できたことを一つ思い出して、自分にも「よくやった」と声をかけましょう。


#子育て
#頑張りすぎない
#自分を大切に 

2026年9月10日木曜日

第41話 子育て 秋の夜『聞こえたありがとう』


 木曜日の夜。夕食を終えるころには、窓の外はもう暗くなっていた。

「暗くなるの、早くなったね」

子どもが窓を見ながら言う。

 昨日、二人で見た青と橙色の空を思い出した。少し前まで、この時間はまだ明るかったのに、季節はちゃんと進んでいる。

 食器を片づけようとすると、子どもが自分の皿とコップを持ってきた。

「ここでいい?」

「うん、ありがとう」

何気なく答えると、子どもが振り返った。

「お母さん、今日いっぱいありがとうって言ったね」

「そう?」

朝、水筒を渡してくれたとき。落とした洗濯ばさみを拾ってくれたとき。そして今。

 数えていたわけではない。でも、言われてみると、小さな「ありがとう」が一日のあちこちにあった。

「じゃあ、ぼくも。ごはん作ってくれてありがとう」

思いがけない一言に、私は笑ってしまった。

「どういたしまして」

 窓の向こうでは、秋の虫が静かに鳴いている。

特別なことは何もなかった木曜日。

でも「ありがとう」を探してみれば、今日も誰かに助けられ、誰かを支えていた。

 幸せは、もらうものだけではなく、言葉にしたときにも少し大きくなるらしい。

今日最後の「ありがとう」は、子どもと笑い合えた、この夜に。

今日のこころの花

今日してもらった小さなことを一つ思い出して、「ありがとう」を言葉にして届けてみましょう。


#子育て
#ありがとう
#親子時間 

2026年9月9日水曜日

第40話 子育て 帰り道『半分こした空』


 水曜日の帰り道。昼間の暑さがまだ残っていて、子どもも私も少し疲れていた。

「今日、長かったなあ」

思わず口にすると、隣から「ぼくも」と返ってきた。

いつもなら「もう少しだから頑張ろう」と言うところだけれど、今日は二人で「疲れたね」と笑った。

 そのとき、子どもが空を指さした。

「お母さん、半分ずつだよ」

見上げると、西の空は夕焼けの橙色。反対側には、まだ淡い青が残っていた。

「ほんとだ。昼と夜で半分こしてるみたい」

二人で立ち止まって眺める。

 昨日は朝露の蜘蛛の巣。今日は二色の空。

同じ道を歩いているのに、毎日違うものが待っている。

「お母さん、どっちが好き?」

「うーん、両方かな」

「ずるい」

子どもが笑った。

 疲れた一日は、なかったことにはできない。でも、その中にきれいなものが一つあれば、「疲れただけの日」ではなくなるのかもしれない。

家に着くころ、空の青はすっかり薄くなっていた。

今日の幸せは、子どもと半分こして眺めた、夕暮れの空だった。

今日のこころの花🌼

疲れた日は、きれいだと思えるものを一つ探してみましょう。それだけで今日の景色が少し変わります。


#子育て
#親子の帰り道
#小さな幸せ 

2026年9月8日火曜日

第39話 子育て 朝時間『急がない一分』


 火曜日の朝は、いつもより少し遅れていた。

「早く靴履いて」「水筒持った?」

言葉まで走り出しそうになる。

 玄関を出て数分歩いたところで、子どもが突然立ち止まった。

「お母さん、見て」

道の端に、朝露をまとった小さな蜘蛛の巣があった。細い糸に光が当たり、きらきらと揺れている。

「きれいだね」

そう言いながら時計を見る。やっぱり時間はぎりぎりだ。

「行こう」と言いかけたとき、昨日、画用紙に描かれた「お母さんの場所」を思い出した。

 私はしゃがんで、子どもと同じ高さから蜘蛛の巣を見た。

「宝石みたい」

「ほんとだね」

ほんの一分だった。

再び歩き始めると、子どもは満足そうに私の手を握った。

 急ぐ朝がなくなるわけではない。毎回立ち止まれるわけでもない。

それでも、立ち止まれる一分があることを、私は前より知っている。

時間に追われていると、一分は惜しく感じる。

でも、その一分で見つけられるものもある。

今日の幸せは、予定表にはなかった、朝露の小さな宝石だった。

今日のこころの花🌼

忙しいときこそ一分だけ周りを見てみましょう。予定になかった小さな幸せが見つかるかもしれません。


#子育て
#忙しい朝
#小さな幸せ 

2026年9月7日月曜日

第38話 子育て 月曜日『残してくれた席』


 月曜日の朝。昨日作った「どんぐりのおうち」は、食卓の端に大切そうに置かれていた。

「ここ、お母さんが描いた木」

子どもが指さす。たった一本描いただけなのに、ちゃんと覚えているらしい。

「覚えてたの?」

「だって、一緒に作ったから」

その一言を胸にしまって、慌ただしい一日が始まった。

 夕方、帰宅すると、私は洗濯物を取り込み、夕食の支度へ。子どもは食卓で絵を描いていた。

「お母さん、見て」

「ちょっと待ってね」

そう答えてから、昨日のことを思い出した。

 私は火を弱め、子どもの隣へ行く。

画用紙には、大きな木と、二人らしい人が描かれていた。その横には、小さな丸が一つ。

「これ、どんぐり一号?」

「うん。それでね、ここがお母さんの場所」

子どもが指したのは、自分の隣だった。

胸の奥が、ふっと温かくなる。

 一緒にいる時間は、長さではないのかもしれない。ほんの数分でも、心を向けた時間は、子どもの中にちゃんと残っている。

「ありがとう。お母さん、ここがいいな」

子どもは満足そうに笑った。

 忙しい月曜日。

今日の幸せは、画用紙の中に残してくれた、私の小さな居場所だった。

今日のこころの花🌼

今日は大切な人のそばで、ほんの数分だけ手を止めてみましょう。心を向ける時間を大切に。


#子育て
#親子時間
#小さな幸せ 

2026年9月6日日曜日

第37話 子育て 秋の休日『どんぐりの居場所』


 昨日拾った「どんぐり一号」は、朝になっても食卓の隅にちょこんと置かれていた。

日曜日。子どもは朝食を終えるなり、空き箱や折り紙を持ってきた。

「どんぐりのおうち作る」

箱の中に緑の折り紙を敷き、色鉛筆で木や雲を描いていく。私は隣で洗濯物をたたみながら、その様子を眺めていた。

「お母さんもやって」

差し出された茶色の色鉛筆。

 やることはまだ残っている。でも、昨日までの私なら「あとでね」と答えていたかもしれない。

「じゃあ、木を一本だけ」

隣に座り、大きな木を描いた。

子どもはそこへ小さな赤い実を足し、「秋の木!」と笑う。

 窓から入る風が、夏より少し涼しくなっていた。遠くから聞こえるセミの声に、秋の虫の音が重なっている。

完成した箱の真ん中に、どんぐり一号を置いた。

たった一つの木の実なのに、立派な宝物に見える。

子どもにとって大切なのは、物の値段でも大きさでもないのだろう。

 一緒に拾ったこと。一緒に作ったこと。そして「見て」と言ったとき、誰かが隣にいてくれたこと。

今日の幸せは、どんぐり一つから広がった、何でもない日曜日の時間だった。

今日のこころの花🌼

今日は誰かの「見て」に少しだけ手を止めて応えてみましょう。一緒に見る時間が、小さな思い出を育てます。


#子育て
#親子工作
#秋の暮らし 

2026年9月5日土曜日

第36話 子育て 秋散歩『どんぐり一号』


 昨日、子どもが自分から失敗したことを話してくれた。その小さな勇気が嬉しくて、土曜日の朝は少し穏やかな気持ちで始まった。

まだ日差しは夏のように強い。それでも朝の風は軽く、今日は久しぶりに、いつもの公園まで歩いてみることにした。

 木陰に入ったところで、子どもが突然しゃがみ込む。

「あった!」

小さな手のひらに乗っていたのは、まだ緑色の残るどんぐりだった。

「秋、見つけたね」

 九月になったら何があるのだろう、と話したのは数日前のこと。子どもは宝物を見つけたように、何度もどんぐりを眺めている。

「これ、持って帰っていい?」

「もちろん」

ポケットへ大切そうにしまう姿を見ながら、ふと思った。

 大人になると、季節はカレンダーで知ることが多くなる。

でも子どもは、風に触れ、虫の声を聞き、落ちている木の実を拾って季節を見つけていく。

帰り道、小さな花屋の前には、夏とは違う色の花が少しずつ増えていた。

 家に着くと、子どもはどんぐりを机の上に置き、「秋、一個目」と笑った。

その言葉がなんだか嬉しい。

季節は過ぎていくものではなく、一つずつ見つけていくものなのかもしれない。

わが家の秋は、手のひらに乗る小さなどんぐりから始まった。

今日のこころの花🌼

今日は季節の変化を一つ探してみましょう。風や空、草花の小さな違いが、暮らしを少し豊かにしてくれます。


#子育て
#秋の散歩
#季節を感じる 

2026年9月4日金曜日

第35話 子育て 親子時間『話したくなるまで』


 昨日の帰り道、子どもは「うまくできなかったことがあった」とだけ話した。何があったのか気になったけれど、それ以上は聞かなかった。

 金曜日の夕食後。私が洗った食器を拭いていると、隣で子どもがぽつりと言った。

「昨日ね、みんなの前で間違えたの」

手を止めそうになったけれど、そのまま皿を拭きながら「うん」と答えた。

「ちょっと笑われた」

胸がきゅっとした。すぐに「誰に?」「先生は?」と聞きたくなる。でも、今はこの子が自分から話している。

「恥ずかしかったんだね」

「うん。でも今日、もう一回やったらできた」

 見ると、少し照れた顔で笑っていた。

「そっか。もう一回やったんだ」

それだけ伝えると、子どもは嬉しそうにうなずいた。

 窓の外からは、秋の虫の声が聞こえている。

親だから、何でも知っていたい。困っていたら、すぐ助けたい。

でも、話したくなるまで待つことも、この子を信じることなのかもしれない。

昨日、無理に聞き出さなくてよかった。

 子どもには、自分の気持ちを自分の言葉にする時間が必要なのだ。

今日の幸せは、「できた」ことよりも、話してくれたこと。

「聞いてくれてありがとう」

そう言うと、子どもは少し不思議そうに、そして嬉しそうに笑った。

今日のこころの花🌼

今日は誰かの話を答えや助言で急がず、最後まで聞いてみましょう。待つことも、相手を大切にする時間です。


#子育て
#親子コミュニケーション
#子どもの気持ち 

2026年9月3日木曜日

第34話 子育て 帰り道『おかえりの空』


 昨日、子どもが自分で結んだ靴ひもを、何度も嬉しそうに見ていた。その顔を思い出しながら迎えに行くと、今日は少し元気がない。

「どうしたの?」

「うまくできなかったことがあったの」

詳しく聞いても、それ以上は話したくないらしい。

「そっか」

それだけ言って、いつもの帰り道を並んで歩いた。

 昨日は「できた」と笑っていたのに、今日は「できなかった」でしょんぼりしている。

毎日が昨日より上手にいくわけではない。それは子どもも、大人も同じだ。

 公園の前まで来たとき、夕焼けに気づいた。

「見て。空、きれいだよ」

子どもが顔を上げる。

夏より少し高くなった空に、薄い雲が桃色に染まっていた。

 「明日はできるかな」

ぽつりと聞かれた。

「できるかもしれないし、できないかもしれない。でも、またやってみたらいいよ」

少し考えてから、子どもは「うん」とうなずいた。

 家の近くまで来るころには、いつもの歩幅に戻っていた。

できた日も、できなかった日も、最後には「おかえり」と迎えてくれる場所がある。

今日の幸せは、そんな一日の終わりに一緒に見上げた、やさしい夕焼けだった。

今日のこころの花🌼

うまくいかなかったことがあっても、今日は今日でおしまい。空を見上げて、明日の自分にそっと渡してみましょう。


#子育て
#子どもの気持ち
#親子時間 

2026年9月2日水曜日

第33話 子育て 朝時間『できたの一言』


 昨日、九月最初の風を見つけた朝。今朝も玄関を開けると、まだ夏の名残を抱えた空気が家の中へ入ってきた。

出かける準備をしていると、子どもが靴の前でしゃがみ込んだ。

いつもなら「やって」と差し出してくる靴ひもを、今日は自分で結ぼうとしている。

一度目は、ほどけた。

二度目も、うまく輪にならない。

時計を見ると、そろそろ出たい時間だった。

 「お母さんがやろうか?」

そう言いかけて、昨日までのことを思い出す。

待つこと。任せること。少し後ろから見守ること。

私は言葉を飲み込み、隣にしゃがんだ。

 三度目。

小さな指がゆっくり動いて、少しいびつな蝶々結びができた。

「できた!」

顔を上げた子どもの表情は、朝の光より明るかった。

「ほんとだ。できたね」

 玄関を出ると、道端に小さな落ち葉が転がっていた。子どもは結んだ靴ひもを何度も見ながら、いつもより少し胸を張って歩いている。

ほんの数分待っただけ。

でも、その数分がなければ、私はこの「できた」に出会えなかった。

 子どもが一つできるようになるたび、私も一つ、待てるようになる。

親子の成長は、きっとこうして並んで歩いていくのだ。

今日のこころの花🌼

今日は誰かの挑戦を少しだけ待ってみましょう。「できた」に出会える時間を、大切にしてみてください。


#子育て
#子どもの成長
#見守る子育て 

2026年9月1日火曜日

第32話 子育て 秋の気配『新しい朝』


 九月最初の朝。

昨日までと同じ時間に起き、同じように朝食を作り、水筒を用意する。カレンダーを一枚めくったところで、子どもが言った。

「今日から九月だね」

「そうだね」

たったそれだけなのに、新しい月が始まったことが少し嬉しかった。

 玄関を出ると、日差しにはまだ夏の強さが残っている。セミも鳴いているし、歩けばすぐに汗がにじむ。

それでも、角を曲がったところで吹いてきた風は、昨日よりほんの少し軽く感じられた。

「秋の風かな」

私が言うと、子どもは両手を広げて風を受け止める。

「ほんとだ。ちょっと涼しい!」

二人で顔を見合わせて笑った。

 八月の初めには、朝の支度を終えて家を出るだけで精いっぱいだった。

今だって忙しいことに変わりはない。

でも、道端の花や空の色、風の匂いに気づく余裕が、少しだけできた気がする。

 昨日、九月には何があるのだろうと話したばかりなのに、もう一つ見つけた。

新しい季節は、大きな音を立ててやってくるわけではない。

いつもの朝に混じった、小さな違いから始まる。

 「行こうか」

子どもの手を握る。

九月最初の幸せは、いつもの道に吹いた新しい風だった。

今日のこころの花🌼

今日は昨日と違うものを一つ探してみましょう。小さな変化に気づくことが、新しい楽しみの始まりになります。


#子育て
#秋の気配
#小さな幸せ 

第51話 子育て 秋散歩『拾わない宝物』

 日曜日の午後、子どもといつもの公園へ出かけた。 「今日は、どんぐり四号を探す!」 張り切って歩き始めたけれど、なかなか見つからない。 その代わり、道の端に赤く色づき始めた葉を見つけた。 「これ、持って帰ろうかな」 子どもが手を伸ばしかけて、ふと止まった。  葉の上に、小さなてん...