2026年10月6日火曜日

第67話 子育て 秋の朝『急がない歩幅』


 火曜日の朝。家を出る時間が、いつもより少し遅くなった。

「急ごう」

そう言って歩き出したのに、子どもの足取りが妙にゆっくりしている。

「どうしたの?」

「葉っぱ、踏んでるの」

 見ると、道の端に乾いた落ち葉が何枚か落ちていた。子どもは一枚ずつ狙って、ぱりっ、かさっ、と音を鳴らしている。

時 計が気になった。でも昨日、冷蔵庫の横に貼った絵と、「お母さんといたよ」という言葉を思い出した。

私は歩幅を少し小さくした。

ぱりっ。

今度は私の靴の下で音がした。

「あ、お母さんもやった!」

 二人で次の落ち葉を探しながら歩く。ほんの数十秒の寄り道だった。

「秋って音もするんだね」

子どもの言葉に、私はうなずいた。

 季節は見るもの、香るものだけではなかったらしい。

忙しい朝だからこそ、少しだけ歩幅を合わせる。それだけで、いつもの道に知らなかった楽しさが見つかる。

今日の幸せは、急ぐ足を少しゆるめたから聞こえた、秋の小さな音だった。

今日のこころの花🌼

 今日は少しだけ歩く速さをゆるめて、足元の音や風の音に耳を澄ませてみましょう。


#子育て
#秋の朝
#季節を感じる 

2026年10月5日月曜日

第66話 子育て 月曜日『昨日の絵』


 月曜日の朝。慌ただしく朝食を片づけていると、昨日、子どもが描いた絵が目に入った。

家と大きな空。その下に並んだ、私と子ども。

「これ、飾っていい?」

そう聞くと、子どもは少し照れながらうなずいた。

 冷蔵庫の横にそっと貼る。たったそれだけなのに、いつもの台所が少し明るくなった気がした。

「昨日、何もしなかったのにね」

私が笑うと、子どもは首をかしげた。

「何もしなくないよ。お母さんといたよ」

手が止まった。

 私はつい、出かけた、作った、片づけた――そんな目に見えることを「したこと」と数えてしまう。

でも、一緒にいることも、笑うことも、のんびりすることも、ちゃんと一日の中に残っていく。

 家を出る前、もう一度その絵を見た。

昨日の何もしない午後が、今日は小さな応援になっている。

「行ってきます」

 忙しい月曜日は変わらない。それでも、心は少しだけ軽かった。

今日の幸せは、昨日のゆっくりした時間が、月曜日までついてきてくれたことだった。

今日のこころの花🌼

 昨日の小さな幸せを一つ思い出してみましょう。その余韻を、今日を歩く力に変えてみてください。


#子育て
#月曜日
#小さな幸せ 

2026年10月4日日曜日

第65話 子育て 秋の休日『何もしない午後』


 日曜日の午後。「どこか行く?」と聞くと、子どもは少し考えてから首を振った。

「今日は、おうちがいい」

せっかくの休日なのに、と一瞬思った。買い物、公園、季節のイベント。休みの日くらい何かしてあげたいという気持ちが、いつものように顔を出す。

けれど、今日は何も決めないことにした。

 私は温かいお茶をいれ、子どもは床に寝転んで絵を描き始めた。窓を少し開けると、金木犀の甘い香りと涼しい風が入ってくる。

時計の音。紙をこする鉛筆の音。ときどき聞こえる鳥の声。

「お母さん」

「なあに?」

「今日、静かでいいね」

その一言に、肩の力が抜けた。

 何かをした日だけが、いい休日なのではない。どこにも行かなくても、特別なことをしなくても、一緒に穏やかに過ごした時間はちゃんと残る。

 夕方、子どもが描いた絵を見せてくれた。そこには家と、大きな空と、二人並んだ私たちがいた。

今日の幸せは、予定のない午後に流れていた、何もしなくていい時間だった。

今日のこころの花🌼

 今日は予定をひとつ減らして、何もしない時間をつくってみましょう。心の余白も大切な休日です。


#子育て
#何もしない休日
#心の余白 

2026年10月3日土曜日

第64話 子育て 秋の休日『月の忘れもの』


 土曜日の朝。カーテンを開けた子どもが、窓の外を見て声を上げた。

「お母さん、月がまだいる!」

 昨夜、帰り道からついてきた月が、薄い青空に白く浮かんでいた。

「帰るの忘れちゃったのかな」

そう言うと、子どもは少し考えて、

「きっと忘れものしたんだよ」

と笑った。

「何を?」

「夜!」

思わず二人で笑ってしまった。

 昨日まで夜のものだと思っていた月が、朝の空にもいる。知っていたはずなのに、こうして眺めると少し不思議だった。

 朝食を終えて外へ出ると、月はさっきより淡くなっていた。金木犀の香りが風に混じり、道には黄色い葉が落ちている。

「もう帰っちゃうね」

子どもが空を見上げる。

「また夜になったら会えるよ」

見えなくなることは、なくなることとは違う。

朝顔の種も、どんぐりの思い出も、昨日の月も。目の前にない時間にも、ちゃんとどこかで続いている。

 十月最初の土曜日。

今日の幸せは、朝の空に残っていた、月のかわいい忘れものだった。

今日のこころの花🌼

 いつも知っているものを、少し違う時間や角度から眺めてみましょう。新しい発見が待っているかもしれません。


#子育て
#秋の空
#小さな発見 

2026年10月2日金曜日

第63話 子育て 秋の夜『月を連れて帰る』


 金曜日の帰り道。すっかり暗くなった空を見上げて、子どもが言った。

「お母さん、月がついてくる」

歩けば月も動き、角を曲がっても、家の屋根の向こうからまた顔を出す。

「ほんとだ。ずっと一緒だね」

 昨日は金木犀の香りに秋を見つけた。今日は夜空に、十月の宝物を見つけたらしい。

子どもは何度も振り返りながら歩く。

「家まで来るかな」

「来てくれるんじゃない?」

 玄関に着くと、子どもは急いで窓のところへ向かった。

「あった!」

建物の間から、さっきと同じ月が見えている。

「ちゃんと来たね」

得意そうに言う顔を見て、私は笑った。

 大人になってから、月は見上げるものになっていた。でも子どもにとっては、一緒に歩いて家まで来てくれるものなのだ。

同じ景色でも、見方が変われば物語になる。

 忙しい一週間の終わり。温かい飲み物を用意して、二人でもう一度窓の外を見た。

今日の幸せは、帰り道から家まで、ずっと私たちについてきてくれた秋の月だった。

今日のこころの花🌼

 今夜は少しだけ空を見上げてみましょう。いつもの月や星を、自分だけの物語にして楽しんでみてください。


#子育て
#秋の夜
#親子時間 

2026年10月1日木曜日

第62話 子育て 10月『秋のにおい』


 木曜日の朝、玄関を出て少し歩いたところで、子どもが突然立ち止まった。

「お母さん、なんかいいにおいする」

私も足を止めて、息を吸い込んでみる。

どこか甘くて、やさしい香り。

「あ、金木犀かな」

 辺りを見回すと、少し先の家の垣根に、小さな橙色の花が咲いていた。

「こんな小さいのに、すごいね」

子どもが鼻を近づけようとして、背伸びをする。

 昨日、九月の宝物を二人で数えたばかりだった。どんぐりや夕焼けのように、目で見つけるものばかりだと思っていたけれど、十月最初の宝物は、先に鼻が見つけてくれた。

「このにおい、持って帰れる?」

「難しいかな」

「じゃあ、いっぱい嗅いどこう」

二人で笑った。

 季節はカレンダーをめくったから変わるのではなく、風や光や香りの中から、少しずつ知らせに来るのかもしれない。

歩き出してもしばらく、甘い香りが後ろからついてきた。

 十月最初の日。

今日の幸せは、目には見えないのに確かにそこにあった、秋の香りだった。

今日のこころの花🌼

 今日は外に出たら、ゆっくり一度深呼吸。風や草花の香りから、今だけの季節を感じてみましょう。


#子育て
#金木犀
#季節を感じる 

第67話 子育て 秋の朝『急がない歩幅』

 火曜日の朝。家を出る時間が、いつもより少し遅くなった。 「急ごう」 そう言って歩き出したのに、子どもの足取りが妙にゆっくりしている。 「どうしたの?」 「葉っぱ、踏んでるの」  見ると、道の端に乾いた落ち葉が何枚か落ちていた。子どもは一枚ずつ狙って、ぱりっ、かさっ、と音を鳴らし...